最近、「3Dプリンター」や「レーザーカッター」などの、コンピューターにつないで、立体物をバンバン作る装置が、劇的に安くなってきてます。CGで作ったバーチャルな立体を、簡単にリアルな三次元立体にすることができるようになってきた。まさに
「頭の中で描いたイメージが、魔法のように、形になる」
という世界が現実的になってきた・・・・・。っと思いがちだけど、はたしてそうなのか?
ちょっと、脇道にそれますが、「頭の中の世界を現実化する」ことについて、シュタイナー教育で有名な神智学のルドルフ・シュタイナーが、精神の進化の段階の話として書いてます。いわく、
人類の精神の進化は七期に分かれる。現在の人類は第四期で、「言葉によって、イデアの影をなんとなくイメージ化できる段階」。
これがもう少し進んで第五期になると、「頭の中の概念を、簡単にイメージとして取り出せるようになる」。
そして第六期をへて精神進化の第七期になると、「思ったことをイメージとして取り出せるだけではなく、事物を創造できるようになる」。
まあ、これは神秘主義な話なので、シュタイナーのイメージでしかないのだが、現在のテクノロジー事情と比較するとなかなか面白い。
たしかに現在の人類は、本というメディアから、インターネットへ移行を始めて、検索エンジンの進歩で、格段に「頭の中の概念を、簡単にイメージとして取り出せる」段階に進みつつある。
画像検索の精度があがれば、今以上に、欲しいイメージを簡単に探せるようになるだろうし、、脳から直接イメージを取り出す装置の研究も実際に進んでいる。
そして、3Dプリンターのような「簡単にイメージを形にする装置」が発達すれば、シュタイナーの言う精神進化の最終段階のように、想像しただけで、すきなものが作れる時代がくるかもしれない!!・・・・となりそうですが、僕はそこで疑問を持ってしまうんです。
現在の3Dプリンターのような技術は、「形」のコントロールはできますが、「物質」のコントロールはできません。原子レベルで操作して、あらゆる素材を再現するような装置は、出てこない。それはなぜかと言えば「ミクロな世界ほど、コントロールするには膨大なエネルギーがいる」し、「情報量も形のみの再現にくらべて、けた違いに増える」からです。
猫の毛から、ステンレスの硬質までの質感を、プリントアウトするような装置を作ることは不可能でしょう。映画アバターのような疑似体験ができはる映像技術はどんどん進みますが、我々は、決してその世界の「温度」や、「手触り」を感じることはなく、今後も、脳が記憶している質感を喚起され続けるだけだと思います。
物質に人間が触れ合うときに、受け取る情報量は、膨大です。作品を作るときの素材選びがとても重要なのは、間違った素材を選ぶと、自分が伝えたいこととは別なイメージを、相手に与えてしまうからです。3Dスキャナで、形だけの立体をバンバン作るということで、なんだかモノを作った気分になるのは、物質によるモノ作りの、コミュニケーションの本質を学んでいないと思います。
なんだか最近、学生さんが安易に3Dプリンターを使って作品を作ったり、それだけではなく、プロのみなさんも、グラフィックデータでプラスチックの板を切り抜いただけで、「えへん、プロダクトデザインなのだ」、と言ってる人が増えてたりするのを見ると、そうじゃないだろー、と僕は思ってしまうのです。