SUSHI BEATとはなにか?

■レコードと楽器の中間を目指しました。

「SUSHI BEAT」という電子ガジェットで目指したのは、“レコードと楽器の中間を作ろう”ということでした。

音楽メディアは、最初はレコード盤というプラスチックの「物体」からはじまり、カセットテープやCDへと変化し、デジタル化によってスマートフォンなどで聞く「情報」へと変化しました。かつては「レコードプレイヤー」とか「カセットプレイヤー」とか、おもしろい「再生装置」もあって、それを触る面白さがあったんですが、今は、ぜんぶスマートフォンになってしまいました。

一方で、オタマトーンという電子楽器を作ったときに痛感したのは、気軽に演奏できる楽器というのは、やっぱり「物体」をさわる面白さがあるなあ、ということでした。

あるとき、「物体ではなくなった音楽の再生メディア」と、「物体として楽器のおもしろ」のふたつがビビっと頭の中で合体して、「楽器のようなおもしろさをもつ、音楽の再生メディア」は作れないだろうか?とヒラメキました。コンパクトで、日本的で、面白い形の・・と考えていったときに、「寿司だ!」とひらめきました。

■寿司ビートの開発

寿司という食べ物のおもしろさは、まず「モジュール化」されていることです。ほぼ同じ形のシャリという四角いご飯の上に、カットされた食材がコンパクトにのっかっている。形が同じだから、並べれば、四角い容器にすっぽりはまって持ち運びも楽。着物もそうですが、このかっちりとした、無駄のない規格サイズの中に、「世界を詰め込む」という点ががとても日本的です。

一方で寿司は、今、世界で流行している「モジュラーシンセサイザー」に似ています。モジュラーシンセサイザーも、Doepfer(ドイプファー)というドイツの会社が「アナログ・シンセサイザーのかたちを四角くして、みんな同じサイズ(規格)にしましょう」と提案したら、爆発的にそれに参加する人が世界中にあらわれてブームになりました。モジュラーシンセの面白さは、やはりコンパクトな中に、いかに音の「世界を詰め込むか?」という点で、寿司に似ています。

そんな背景もあって、まず、SUSHI BEATは、サイズと仕様を決めました。それが「SUSHI 規格」です。この規格サイズの中に詰め込もう!というアイデアでした。

「SHARI (シャリ)」という箱の部分が、電子基板やスピーカーなどの収める部分です。一般的に電子機材を収める箱のことを「シャーシ」といいますが、日本語の「シャリ」って言葉はちょっと似ています。シャリにはスリットの穴が開いていて、ここからスピーカーの音が出ます。これをちょうど寿司を握るように指で開け締めすると、音が大きくなったり小さくなったりします。ちょうど、DJのプレイでいえば音に「フィルター」をかけているような効果が出せます。

この「SHARI (シャリ)」の上に、心臓部となる「電子基板」が乗っかっています。これを「OTO(オト)」と読んでいます。ここには音を発生させるサウンドIC、スイッチ、スピーカー、電池、LEDがのっかっています。昔で言えば、これがレコードプレイヤーとかカセットテープといった「再生装置」の部分ですね。音はサウンドICの中に入っているので、これが「レコード」や「テープ」の部分です。音は現在4つあって「ドラム」「ベース」「シンセサイザー1」「シンセサイザー2」です。この4つの音は、テンポと調律をあわせているので、同時に弾けば、曲っぽく演奏できるようになっています。適当にそれぞれスイッチを押していくと、まるでDJのよに、曲を演奏することができます。

さて、「SHARI(シャリ)」「OTO(オト)」の上には、寿司でいう食材の部分「NETA(ネタ)」が乗っています。この「ねた」は、SUSHI BEATのデザイン性が発揮されている部分です。機能的には、スイッチの一部で、ここを押すと音が出るようになっています。

■マイクロファクトリーで製造


このSUSHI BEATの「SHARI」と「NETA」の部分は、ちょっとおもしろい作り方をしています。通常、こういうプラスチックパーツを量産するとなると、金型を作って、プラスチックを注型して・・と莫大な費用がかかり、かつ、何千個と大量に生産しないと利益が出ない。どう考えてもSUSHI BEATのようなマニアックな商品がそんなに売れるとは思わないし、かつ、そんな初期投資の資金もない。

そこで、今回は「明和電機の工場にある工作機械で量産できないか?」ということを徹底的に追求しました。そしてその結果、「3Dプリンター」と「レーザーカッター」で加工した部品で作ることができました。どちらも最近は低価格化し、かつ、CADでの制御が簡単な機材です。複雑なパーツは3Dプリンター、平面的な部品はレーザーカッター、そのふたつを組み合わせることで、金型を使わずに量産をすることができました。

この作り方は、もうひとつメリットがあって、「多様性」にスピーディーに対応できる、ということです。レーザーでカットするので、データさえあれば、「一種類を10個作る」こと、「10種類を一個づつ作る」ことも変わらないんです。もしそれを金型で作ろうとしたら、10個分の費用がかかる。これはまったく現実的ではない。

このメリットを応用して、SUSHI BEATでも「TOKUJOU(特上)」と呼んでいる、限定バージョンをいろいろ作りました。たとえば、特殊な作り方でロットの少ない高価な「ビンテージアクリル」というプラスチックの板があるんですが、それを買ってきて10個だけ作ったり、時事ネタを取り入れてコロナウイルスを漢字で書いた「虎露奈」というのを作ったり。

「いい素材をさがしてきて、すばやく作る」というのが、まるで、築地に魚を仕入れにいって、その日に店に出す「寿司屋」みたいだな、と思いました。

■「紙で作ればいいのでは?」・・並の登場

アクリル樹脂で作ったSUSHI BEATは、デザイン的にも面白いんですが、やはり素材も高価で、ハンドメイド的な部分があるので、どうしても一個の価格が高くなる。寿司でいえば「高級寿司」なわけです。でも一方で、寿司は、「回転寿司」のような大衆的でエコノミー価格の寿司もある。「安いSUSHI BEATは作れないかなあ・・・」と考えていたときにひらめいたのが「アクリル樹脂じゃなくて、紙でつくればいいのでは?」というアイデアでした。

今は見かけなくなりましたが、かつて紙でできた「マッチ箱」が普及していた時代がありました。いろんなお店や会社のデザインが書かれたマッチ箱は、今見るとどれもコンパクトな中に世界観があって、とてもおもしろい。こんな感じでSUSHI BEATの「シャリ」と「ネタ」を箱にすれば、いけるのでは?と思いました。

こうしてできたのがSUSHI BEATの「NAMI」です。マッチ箱と同じようなしくみでできています。ネタのデザインはリアルな寿司ではなく、単純化したかたちにしました。

これを作ることで、一般の人でも4つの音のSUSHI BEATを、レコードを買うようにまとめて買えるようになりました。ここから「明和電機のニューシングルをSUSHI BEATで出せる!」ということに行き着きました。

■ニューシングル「SUSHI GO!」の発表


4つのSUSHI BEATを適当に押せば、なんとなく曲になります。楽しみとしては、まずそれでオッケーなんですが、さらに楽しみたい人にむけて「課題曲」みたいななのがあったら、ゲーム的に楽しいんじゃないか?と思ったんです。

たとえばゲームセンターにいけば「太鼓の達人」のような音ゲーが流行っています。音ゲーには「課題曲」があって、みんな一生懸命それを練習して、演奏をクリアすることを楽しんでします。であれば、SUSHI BEATにも「課題曲」があれば、楽しんじゃないか?と思いました。そこで、SUSHI BEATの音だけで作った楽曲「SUSHI GO!」を作曲しました。

これは「課題曲」でもありますが、明和電機としてはひさしぶりのニューシングルでもありました。レコードやカセットやCDとはちがう、新しい音楽再生メディアとして、これをリリースしたら、めちゃくちゃおもしろ!と思い、今回の発表となりました。

ニューシングシングル「SUSHI GO!」は、iTune,Spotyfiなどで配信中です。

■オリジナルSUSHI BEAT制作サービス

最初にお話しましたが、SUSHI BEATはモジュラーシンセサイザーのような「オープンな規格」を目指していて、だれでもこの規格にのって作ってくれたら面白いなあ、と思っています。でも一方で量産となると、いろいろノウハウがいることもたしかです。そこで、受注でみなさんのオリジナルのSUSHI BEATを作るサービスを立ち上げることにしました。

これはみなさんから音源とデザインを送ってもらい、最低100個からの受注生産を受けるサービスです。ちょうどレコードでいえば「音源」と「レコードジャケットのデザイン」をもらって、レコードを量産するイメージです。

受注数は最低100個からなので、コンサートグッズで販売したり、会社イベントのノベルティで作ったり・・といろんなアイデアで使えると思います。

制作したオリジナルのみなさんのSUSHI BEATも、秋葉原にある明和電機のショップやネットショップでも販売したいと思います。まさにSUSHI BEATのレコード屋を作るイメージです。

こんな感じで、SUSHI BEATの世界が広まっていくと楽しいなあ、と考えています。

SUSHI BEAT、明和電機のネットショップで発売中!!>こちら

 

【SUSHI BEATの映像】

 

 

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