「秘密基地」。この4文字を見るだけで、昭和世代の男子は、なぜかドタバタと心が踊り、居ても立ってもいられなくなります。この症状を「秘密基地キチガイ」、略して「基地キチ」と呼んでいます(僕は)。
僕に「基地キチ」の洗脳をほどこした出発点は、なんといっても「サンダーバード」。このイギリスの科学特撮人形ドラマが日本で放映されたのが1967年。この年に僕は生まれたのですが、再放送もなんどもあったので、それを見ました。子供なのでドラマのストーリーはよくわかりませんでしたが、科学的な考証にもとづいて作られたメカと、そのメカが格納された秘密基地からの発進シーンには心躍りました。
このサンダーバードの秘密基地は、南の島の地下にあって、プールが割れて中からロケットがとびだすのですが、直射日光がまぶしいハワイみたいなリア充な世界から、いきなりオタクなメカの世界が躍り出るギャップは衝撃で、子供たちを「基地キチ」の世界へと歩ませました。
その後、この「秘密基地」の設定はアニメにも影響をあたえ、マジンガーZも光子力研究所の地下に格納されており、出撃するときはプールが割れて飛び出しました。こどもながらに「水道代、たいへんやな」と思いました。
男の子にはどうやら、機械に囲まれるとテンションがあがる、という症状があるようです。「基地キチ」もそのひとつですが、その他に、飛行機や車の操縦席でテンションがあがる「コクピット・キチ」や、電子楽器に囲まれてうっとりする「シンセ・キチ」、パソコンや周辺機器にかこまれる「デジ・キチ」、最近では3Dプリンターやレーザーカッターにかこまれる「ファブ・キチ」など、いろんなタイプがあるようです。これはいわば「子宮にもどって包まれたい」という胎児的要求と、好きなマシンに囲まれたいという文明的欲求が合体した、人類ならではのキチ(ただし男子限定)ではないか?と思います。
さて、マジンガーZといえば、1972年、画期的なオモチャがバンダイから発売されました。それが「超合金マジンガーZ」です。それまでのプラモデルやオモチャはプラスチックなので、軽かったんですが、この超合金は「重い」という付加価値がついていました。つまり重力という地球を味方につけた商品でした。
これはもう欲しくて欲しくてたまらなかったのですが、いかんせん高価。「一生のおねがい。勉強がんばるから。みんな持ってるんだよね。」という無責任三重奏で親をくどき、なんとか買ってもらいました。
ずしりと重いその超合金を手ににぎりしめると、「基地キチ」の洗脳をうけているのでじっとしてられません。「砂場や!」と公園に直行しました。砂場の砂をかためて「光子力研究所」をつくり、砂場に穴をほって地下格納庫をつくってマジンガーZを埋め、そこからズキューンと飛び出す遊びをやりました。
しかし、ここで僕は大きな失態を犯してしまいます。「基地キチ」としては、「光子力研究所」の作り込みに熱心になってしまいました。そしてあろうことか、研究所を完成させたことに満足し、マジンガーを埋めたまま家に帰ってしまったのです。
家について、なにか忘れてるな・・・・と思い返し、「マジンガアアア!」と気づいてダッシュで日が暮れて暗くなった公園の砂場へ走りました。しかしそこには墓荒らしにあったピラミッドのような光子力研究所と、むざんにも掘り出された穴があるだけでした。おそらくどこかのクソガキが、「地面からお宝が出てきた!」と大喜びで鼻を垂らしながら持って帰ったのでしょう。
とっぷりと日がくれた砂場で、「マジンガアアア!」と砂をにぎりしめながら号泣しました。いつまでも、いつまでも・・・・
さて、それからやく35年後。
1995年に明和電機の初の楽器の展覧会「ツクバ展」が開催されることになりました。このメインビジュルを作ることになり、どうしよう?となりました。「ツクバ」とは架空の研究都市の設定だから・・と思ったとき、「秘密基地や!」とひらめきました。兄ちゃんも、ビジュアルデザイナーの中村さんも、ドンピシャ「基地キチ」世代なので、「そや!秘密基地や!」となりました。
ここからは「失われたマジンガーZ」へのリベンジです。光子力研究所をモチーフにした「明和電機 ツクバ研究所」のイメージを描き、筑波大学の学生さんの力を借りて、そのジオラマを作りました。また、明和電機の魚器シリーズである「魚立琴(なたてこと)」が、ロケットに似てるからということで格納基地も作りました。これはもう、大人の力をつかって子供時代の夢を再現する作業だったので、楽しい楽しい!
このジオラマ作りには、現在、人形コマ撮りアニメなどで活躍中の「パンタグラフ」の井上くんや、絵本で売れっ子のヨシタケシンスケくんも、当時は学生として参加していて、見事にイメージを再現してくれました。
2004年、バンダイが超合金シリーズの30周年を記念して、ラフォーレ原宿で「超合金EXPO2004」を開催することになり、そこで明和電機に参加のオファーがありました。すぐさま「“失われたマジンガーZ”のリベンジや!」と思い、「超合金・社長」を作ることにしました。僕が描いたイメージスケッチを、ここでもまた、井上くんとヨシタケくんが見事に超合金にしてくれました。
ウィングの開閉から、ロケットパンチ、オプションの「サバオ」まで、夢にまでみた超合金のエレメントを注ぎ込まれていました。ふたりの造形もすばらしく、また紹介映像も格納庫におさまる社長ロボのシーンから始まる「基地キチ」のツボをつきまくったものでした。
この展覧会場にはオモチャのコレクターで有名な北原 照久氏も訪れ、「超合金・社長」を見て「コレクションしたいなあ~」とおっしゃったそうです。でも「これは、あげられへん」と、かつての公園の砂場で号泣した僕は思いました。
小さい頃の不満が、どこで創造力につながるかわかりませんね。
過去記事
<社長と模型 その1 プラモほしさに親の財布から100円盗む>
<社長と模型 その2 プラモと出刃包丁>
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さて、そんな明和電機社長の、模型やミニチュアに対する熱い思いや、先日初参加した「ワンダーフェスティバル2017」の報告、そして1/6モデルの制作秘話を語るいイベントが開催されます!
ワンフェス2017に初参加した明和電機。イベントに向けて開発された「ナンセンスマシーン 1/6モデル」の開発秘話や、海洋堂とのコラボレーションアイテム「パラボラくん」の展開、そしてマルセル・デュシャンの「トランクの箱」から、GM(量産型ガンダム)までつながる社長のミニチュア模型にかける思いなどを明和電機のアトリエにて、たっぷり2時間お話します。
当日は、オリジナル製品と、その1/6モデルも展示します。
土曜日の夕方、お酒を飲みながら、みなさまどうぞお楽しみください。
◎とき 3月4日(土) 17:00~19:00
◎場所 明和電機 アトリ工
(東京都品川区荏原3-7-14 アルス武蔵小山1F)
◎定員 50名
◎チケット 1000円 (1ドリンク付き)
当日の11:00からアトリ工にて発売します。
※電協組合員の方は先行でSTORESにてご購入できます。
◎お問い合わせ mail@maywadenki.com
毎度好評をいただいています「明和電機処分市」を、同時開催します。製品開発のプロトタイプから、材料の端材、買ったはいいが使わない工具など、明和電機ならではのへんなものがたっぷり。
ぜひみなさま、お越しください。
◎とき 3月4日(土) 11:00~16:00
◎場所 明和電機 アトリ工
(東京都品川区荏原3-7-14 アルス武蔵小山1F)
入場無料